セミナー&シンポジウムの記録
2007年IGK秋期セミナーに参加して
辻 英史 (総合文化研究科 地域文化研究専攻・IGK所属)

ハレ市は、ドイツ中部ザクセン=アンハルト州の南部に位置し、古くからその塩鉱により栄えた都市である。マルティン・ルター大学は、啓蒙主義のドイツにおける一大中心として知られたハレ大学と、ルターら宗教改革の牙城であったヴィッテンベルク大学が19世紀に合同して誕生した大学で、現在大学の施設の大半はハレ市にある。また、ハレ市は、バロックの作曲家ヘンデルの出生地であるほか、アウグスト・フランケに代表されるドイツ敬虔主義の中心地の一つとしても知られている。現在の人口は23万人ほどで、ドイツの精神文化の伝統に彩られた落ち着きのある地方都市である。

のべ5日間にわたっておこなわれた学生ワークショップは、日独双方で報告者合計26名を数える大規模なものであった。共同大学院の掲げる「市民社会の形態変容」というプロジェクトのタイトルにふさわしく、日独双方から大変内容の濃い報告が相次ぎ、白熱した議論がしばしば予定時間をはるかに超過して続いた。
日本側の参加者は、報告原稿を事前に周到に用意していただけでなく、その後の質疑応答においても、全員ができる限り自力でドイツ語を用いて誠実に対応し、その努力はドイツ側にも大きな印象を与えていた。ドイツ側は、プログラム開始後間もないため、研究の初期段階にある者が多かったが、そのプレゼンテーション技術、論文の構成、とくに研究の方法論への配慮などは、日本側学生にとって大いに参考となるものだったろう。
また、ワークショップ以外の時間には、双方の学生が教員と個別に面談する時間も設けられた。これはIGKプログラムで留学を予定している者にとっては、将来の指導教員と研究計画について打ち合わせる貴重な機会となった。

まず、シンポジウム「1945年以降の戦争犯罪、民族殺害、公共性――日本とドイツの観点から」は、日本から三名、ドイツから二名の講演者を招いて開催された。日本側からは、南京事件、七三一部隊といった戦争犯罪が、その後日本社会および外交でいかに問題化されたかという点について、尾山宏、笠原十九司、松村高夫の各氏が、それぞれ啓発的な報告をおこない、さらにこの問題を、ドイツ側の視点からハレ大学のシェルツ氏が包括的に論じた。このように同様の問題について日独双方の分析視角を同時に比較できるという機会は稀であり、興味深いものがあった。また、戦後ドイツにおける問題を、リルタイヒャー氏(リューベック・ヴィリー・ブラント・ハウス館長)が報告した。過去の戦争犯罪とどう向き合うかという問題は、いかなる立場をとるにせよ、一定の政治性を帯びざるを得ず、そこにその国の政治文化が如実に表れてくる。このシンポジウムでは、とくに被害者への補償と記念のあり方について、日独双方の共通面よりはむしろ相違の面が際だたせられていた。


以上、本セミナーは、短期間ではあったが質量とも充実した手応えを参加者に残した。