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渡部 聡子

東京大学大学院総合文化研究科 地域文化研究専攻 博士課程

研究テーマ研究内容Forschungsprojekt

研究テーマ

ドイツにおける市民参加促進制度の変容

研究内容

本研究はドイツにおける市民参加促進制度(Freiwilligendienste,以下FWD)の分析を通じて、国家主導型の市民参加の変容を示すものである。FWDは法律の整備と補助金により、国家が市民の自発的な活動(「市民参加」)を支援するための制度であり、2000年代以降、連邦による「参加政策」の一環として拡充が進められてきた。しかしそれに伴い、市民参加を安価な労働力としてみなす点でドイツ福祉国家の転換そのものであるという批判や、徴兵制の停止に伴って導入された新しいFWD制度(Bundes-freiwilligendienst,以下BFD)において連邦の権限が拡大し、既存制度(Jugendfreiwilligendienste,以下JFD)の運営に関わってきた組織の自律性が軽視されているという批判が展開されるようになった。

FWDを対象とする研究はかつてないほど活発に行われるようになったが、その課題として(1)福祉・介護分野が中心となり、環境保護分野のFWD研究が進められていないこと、(2)BFDとJFDは「二重構造」にあるとして対立的に提示されてきたが、より慎重に関係性を検討する余地が残されていることが挙げられる。そこで本研究では環境保護分野におけるBFDとJFDの運営に関わる組織を分析対象とし、その政治・社会的な条件、運営方針に係る意図・動機、組織間の関係性を分析することで、なぜBFDとJFDは「二重構造」と称されるような差異を内包する制度設計にあるにも関わらず並存を維持できているのかを明らかにしていく。

これにより、一方においては、連邦主導の下、BFD導入と福祉分野のJFD拡充によって新自由主義的な福祉国家への転換という意味での「参加政策」が強力に推し進められているが、もう一方においては、環境保護分野JFD運営に関わる組織が州との協働の下、「参加政策」の意図と必ずしも一致しない方向性を経路依存的に維持していることが示される。その方向性は具体的には、環境保護のための抗議行動を促し、政治的な発言力の基礎を形成するといった積極的な「政治参加」の意味における青少年のための環境教育であり、それは「参加政策」が含意するところの「市民参加」とは一線を画している。

このように、国家主導型の市民参加は確かに変容しつつあるが、その展開は複線的であり、僅かな規模ではあれ、多様な展開の可能性を残していることに留意し、研究を進めたいと考えている。

Watanabe, Satoko

Graduate School of Arts and Sciences, Department of Area Studies, Universität Tokyo

Forschungsprojekt


※準備中