main graphics

川﨑 聡史

東京大学大学院総合文化研究科 地域文化研究専攻 博士課程

研究テーマ研究内容Forschungsprojekt

研究テーマ

「68年運動」以後の西ドイツにおける左翼の青年運動とその政治文化

研究内容

本研究は、1960年代後半から70年代前半の左翼の青年運動が西ドイツの政治文化にどのような影響を与えたのかについて調査するものである。

1960年代後半に頂点を迎えた社会全般への異議申し立て運動(いわゆる「68年運動」)において、学生たちは重要な役割を担った。特に学生の指導的組織としての社会主義ドイツ学生同盟(SDS)の活動は注目される。しかし、「68年運動」の終息後、SDSは1970年3月に解散してしまう。これまでの研究では、SDSを含めた学生運動に参加した若者は、その社会主義を志向するイデオロギー性を次第に減少させた結果、ドイツ社会民主党(SPD)に参加したり、「新しい社会運動」や緑の党設立に参加したり、政治的活動から身を引いて私的生活へと戻っていったとされてきた。イデオロギー性を減じなかった人々は、「Kグループ」と呼ばれるような小規模な新左翼グループや「旧左翼」のドイツ共産党(DKP)系の新組織に参加したり、テロ組織を設立したりしたとされている。

しかし、SPDに参加したり、「新しい社会運動」に加わったりした人々が、必ずしも社会主義イデオロギーを放棄したわけではなかった。むしろ「68年運動」終息後には、社会主義運動に参加する若者の数は増大し、西ドイツ社会において存在感を増していた。ここではSDS解散後も社会主義的イデオロギーから脱却せず、新たに合法的な組織で政治活動を継続した若者たちに焦点を当てる。彼らが「68年運動」の挫折からどのような教訓を引き出し、豊かな資本主義国家であった西ドイツでどのような社会主義運動を構想し、それがどのような政治文化を作り上げていたのかを精査する。

研究の遂行に際して具体的には以下の3項目を対象とする。
①既存の政党組織(SPD青年部ユーゾー)に参加した若者についての調査
②新左翼組織「Kグループ」に参加した若者についての調査
③DKP系組織に参加した若者についての調査

本研究が対象とする時期の若者は、戦後最初のベビーブーム世代であり、彼らの存在と行動は、社会に対し量的にも質的にも大きな意味を持った。さらにこの時期に若者として初めての政治的な経験を積んだ人々は、現在のドイツ社会でしばしば枢要を占める人々でもある。また、60年代後半から70年代前半の西ドイツの社会は、それまでの伝統的な産業社会からポスト産業社会への転換過程にあった。さらに1973年の石油危機でそれまでの経済成長が停滞したことによって、人々の生活環境は変化を経験した。こうした変化は、政治意識にも強い影響を与え、市民による政治参加の方法も大きく変容した。現代に直接通じるドイツ社会の諸条件が生みだされたという意味で、この時期は時代としての「現代」の直接の前史と言うこともできる。それゆえ、この時期の政治文化を研究することは、現代ドイツの市民社会の原点の一つを探求することでもあるだろう。

Kawasaki, Satoshi

Graduate School of Arts and Sciences, Department of Area Studies, Universität Tokyo

Forschungsprojekt


※準備中